夢想曲ートロイメライー

「僕は皆さんと違って元は百姓です。……身分の違う皆さんと共に泳ぐわけにはいきませんから」

利輔の家は今は足軽だけど、昔は違ったみたいだ。

元々利輔の家は百姓で、父の養子先の家の人が足軽の養子になった為、利輔も足軽になったらしい。

利輔はその事を気にして、塾でも一人だけ外に立って勉強している。

……そんなこと気にする必要ないのに。

「利輔、あの中には百姓の子もいるのよ。私の家だって武家ではないし、利輔だけが遠慮する必要なんてないじゃない」

そう言っても利輔は俯いて、首を縦に振ろうとはしない。

私は目を閉じてため息をつく。

「夕霧さん……?」

急に黙ってしまった私に、利輔が声をかけて顔を覗き込む。

……仕方ない。

私は利輔の腕を掴み駆け出す。

「ちょ、夕霧さん!?」

驚いた利輔が腕を振り払おうとするが逃がさない。

そのまま川に向かって大きく跳躍する。

また水飛沫が舞った。

また着物がびしょ濡れになるが、もう気にない。
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