こちら、私の彼氏です
ーーぷちっ。

「「あ」」

私と伊山の声が重なる。
伊山の人差し指からボールチェーンが外れ、私の嫌な予感通り、鍵が吹っ飛んでいってしまったからだ。


吹っ飛んでいっただけならまだしも。



ーーぽちゃん。


むなしい水音とともに、鍵は、コンクリートのふたのわずかなすき間から、側溝へ落ちていった。


「ちょ、ちょっと!」

私は焦る。薄暗い道とはいえ、どこの側溝に落ちたかははっきりと見えた。だけど、ふたが重すぎて、伊山の力で引き上げてもそれは動かなかった。


「やべー。どうする?」

「ど、どうするって私に聞かないでよ! え、ていうか本当にヤバいんじゃない? 私、明日どうなるの? ずっとこのまま? ちょ、ちょっとなんとかしてよ!」

「落ち着けって。なんとかなる。えーと、警察? レスキュー?」

「こんなことで警察やレスキュー呼んだら怒られるよ!」

「じゃあ……このコンクリートのふたが開けばいいわけだから……市役所?」

「市役所でもないし、市役所だとしてももう閉まってるし!」

「ははっ、困ったな」

「笑いごとじゃないんですけど!」


私が近所迷惑も考えずに大声を出していると、うしろから、チリンチリンという音とともに自転車がやってきた。それに乗っていたのは、制服を着たお巡りさんだった。


「あのー、どうかしました? 女性の大きな声が聞こえてきたのですが」

自転車にまたがったまま私たちにそう尋ねる四十代くらいのお巡りさんは、自転車のライトを私たちの方へ向けて、そして私の右手を見てぎょっとした。
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