平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
「若いっていいね」

バカにされるのは覚悟の上でポロリと零すと、意外な反応が返ってきた。

「北村さんだってぜんぜん若いですよ。十分イケてます」
「なっ! おだててもなんにも出ないわよ」

真面目な顔で言われれば、慣れない言葉に条件反射で顔が熱くなる。

「えぇ~。その玉子焼き、くださいよ」

なんだ、やっぱりそれが狙いなのね。そうだと思った。
背後から覆い被さるように伸ばしてきた腕から、最後に味わって食べようと取っておいた一切れを死守する。
払い除けようとして目に入ったワイシャツの袖口の先にある手が、思いのほか骨張っていてることに『男』を感じて、一瞬ドキリとさせられた。

「おや、ま」

吉井さんがそれこそオバさんみたいに反応して、ふぅんと意味深に笑みを深める。

「瓢箪から駒って、本当にあるんだぁ」
「なんですか、それ? オバさん語?」

残りのポテトをジュースで流し込むと、クシャッと空になった紙袋を丸めて立ち上がる。

「礼子ちゃんはイケてて、私はオバさんだって言うの!? こんな簡単なことわざも知らないガキんちょが!!」
「すみませんね。俺、理系なもんで。お先にっ」
「あっ、逃げた」

吉井さんは、ふんっ、と鼻を鳴らして椅子にもたれかかった。ついこの前まで、自分もあんな言い合いをしていたのかと思うと恥ずかしい。

「前言撤回。あんなガキ、止めておきなよ」
「止めるもなにも。彼だったら職場の年上女子なんか相手にしなくても、いくらでも可愛い女の子が寄ってくる
んじゃないですか。それ以前に彼女くらいいそうだし」

ただでさえそんなに世の中甘くない、ということを思い知らされている最中だ。
それでもほんの少しだけ、いつもと変わらず気負いのない軽いやり取りに、沈みがちだったメンタルが浮上する。

こうしてまたいつも通りに進む日常がきっと、イレギュラー的に生まれた感情を流してくはず。
そう信じて、抱いてはいけないはずの想いを胸の奥に閉じ込めた。
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