平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
 ◇ ◇ ◇

そんな邪な想いを抱えたままでも、何事もなく日常は過ぎていくもので。やっぱりこれが、平凡なわたしの人生なのだとあらためて実感する。

「赤ちゃんの性別、もう判ったんですか?」

ほら。日曜日のランチタイム終了後。テーブルの上を片付けながら重そうなお腹を抱えて動く希さんと、こんな会話だって普通にできるんだから。

「教えてくれるって言われたんだけどね。産まれるときまでの楽しみにしたの」
「そうなんですか。ママでもパパでも、どっちに似ても可愛くなりそうですね」

すらっとスタイルの良い、優しい顔立ちの子になると思う。

「あれ? 礼ちゃんって――」

なにかを言いかけた希さんの言葉を遮って、ドアベルが時間外の来客を知らせた。
あっ! ランチの看板を出しっ放しにしていた。

「すみません、もうランチ終わっていて……」
「あ、そうだったんですか……北村さんっ!?」

エプロン姿で台布巾を持ったわたしが振り返れば、そこにはスーツを着た脩人くんが唖然として立っている。急いで顔を背けたけど、そんなことをしたところでごまかせるわけはない。

「あれ、どうして日曜にスーツなの?」
「あ、この近くのどうしても平日だと会えないお客様のところへ行ったから――って、そうじゃないよっ! なにやってんですか!?」

どう見ても客ではない格好をしたわたしの、頭のてっぺんからつま先まで視線を動かし訝しむ。

「えっとね、それは……」

言い淀むわたしの耳元に希さんが囁いた。

「礼ちゃんの知り合い?」
「はい、会社の後輩で。実は、社長の息子さんなんです」

え? と目を見開いた希さんに、困ったことになったと眉を曇らす。

「どうかした?」

厨房から晃さんまで顔を覗かせてしまえば、わたしは焦りで苦し紛れの言い訳をする。

「あのね、ここは兄のお店で。開店したばっかりだから人手が足りなくて、休みの日だけ手伝いっているのよ」

ね? と固まるふたりに目配せを送る。

「身内の手伝いをしているだけなんだから、職務規程には触れないでしょう? お金だってもらってないし。じゃあ、ランチはもう終了だから帰ってもらえるかな」

口を挟まれないように一息で言い募ると、呆気にとられている脩人くんをくるりと反転させて背中を押した。
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