平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
久し振りの雨のない週末だからなのか、郊外の動物園は思ったよりも賑わっている。
たいがいが小さな子どもを連れた家族や初々しい学生同士とみられるカップルで、なんとなく居心地の悪さを感じていた。

でもそれはどうやら、わたしだけだったようで……。

「すっげー! やっぱでかいよな、ゾウって。でもさ、鼻で水吸って、痛くならないのかな?」

「なんだよ。せっかく来たのに、寝てばっかじゃつまんねぇ。百獣の王じゃなくて、爆睡王に変えたほうがいいぜ」

動物を囲う柵に身を乗り出してはしゃぐ様子は、小学生以下だ。ときどきすれ違う人たちにクスクスと笑われていることにもまったく気づかずに、大きな瞳をキラキラさせている。

「あ~、ポニーだ。可愛いなぁ、飼いたいなぁ」
「それ、本気で言ってるの?」

たしかに可愛いとは思うけど、家で飼うには大きすぎじゃない?

「そうですか? ウチにいる源三(げんぞう)とそんなに変わらないんじゃないかな」
「源三?」

突然出たおっさんぽい名前に首を捻る。

「犬の名前です。バーニーズの」
「え、嘘。 バニを飼ってるの!?」

憧れの大型犬の名に思わず興奮してしまう。

「あと、ジャーマンシェパードのカールと白柴のリョウもいますよ」
「三匹も! すごい。いいなぁ。わたしの実家にも、もうすぐ十五才になる雑種のコがいてね」

帰省したときにしか会えなくて。その度に老化による衰えを実感させられると、切なくなる。
数ヶ月ぶりに会っても千切れそうなほど尻尾を振って喜んでくれる、可愛い家族の一員なのだ。

その後は、互いの愛犬話に花が咲く。スマホに保存していた写真を見せ合って「ウチのコ」自慢をベンチで繰り広げていると、画面にポツリと水滴が落ちてきた。

空を見上げると、朝より暗い雲がどんよりと垂れ込めている。

「降ってきちゃったね」

あちこちで色とりどりの傘が開き始めていた。わたしもバッグの中から折りたたみ傘を取りだして開こうとする。その手を脩人くんが握って止めた。

「もうお昼の時間だし、あそこで弁当食いませんか?」

木立に囲まれた四阿(あずまや)を指差して、お弁当の詰まったバッグを持ち上げ、わたしの手を掴んだままスタスタと歩きだしてしまった。

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