平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
引っ張られるようにして辿り着いた四阿の周りには、人気がなくて森の中にいるようだ。

「ついでに飲み物も買ってきます。なにがいいですか?」
「あ。じゃあ、温かいお茶で」

ぽつりぽつりと雨粒が落ちる中、彼は近くの自販機へと走っていった。

せっかく作ったんだから、食べないで帰るのも癪だしね。
バッグの中身を広げ始める。

「おぉ! すごいですね。でも、なんだかいつも食べているのと印象が……?」

戻ってきた脩人くんは、鋭いところをついてきた。

「文句があるなら、別に食べなくてもいいんだからね」

晃さんが作る松花堂弁当のように上品なものなんて、どうせわたしには無理だし。ふてくされたふりをして蓋を閉じようとすると、脩人くんが慌てだす。

「不満なんてありません! あるわけないじゃないですか」

蓋を奪い取って必死にガードするから、「冗談よ」と取り皿と割り箸を渡した。

「好みがわからないから適当に作ってきたけど、嫌いなものがあったら残してね」
「そんなもったいないこと、絶対にしませんよ」

さっそくおむすびに手を伸ばすと、感嘆の声を上げた。

「サッカーボールになってる。なんで、俺がサッカー好きって知ってるんですか!?」
「へ、へぇ。そうなんだ? ふ~ん」
 
偶然の一致に喜ぶ脩人くんに、苦肉の策だなんて本当のことは言わないほうがいいよね。ここは適当な返事でごまかしておこう。
だけどそれが不満だったのか、

「――礼子さんって、興味ないんですか?」

突然変わった声のトーンはあきらかに不機嫌なものだった。

「サッカー? そうね、あんまり観ないかな」
「そうじゃなくて」

脩人くんは割り箸を置いた手をテーブルにつき、グイッと身を乗り出す。

「俺のこと、どう思ってます?」

次第に強くなってきた雨音を遮って真剣な声が届いた。
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