シャンパントリュフはキスの魔法
「河村(かわむら)も食べるんだろ?」

 主任が一粒つまんで私の口元に近づける。

「え」
「うまかったぞ」
「あの」
「ほら」

 トリュフが唇に触れ、私は小さく唇を開いた。白いパウダーシュガーが舌の上でふわっと溶け、ミルクチョコレートに包まれたシャンパンクリームの芳醇な香りが余韻となって残る。

「たしかにご褒美級のうまさだな」

 主任が私の隣に腰を下ろした。

「しゅ、主任はチョコレートがお好きじゃないのかと……」
「どうしてそう思う?」

 主任が斜めに私を見下ろした。三十歳の大人の魅力たっぷりの眼差しに、否が応でも鼓動が高まる。主任に鼓動が聞こえてしまったらどうしよう。

「あ、いえ」
「言葉を濁すなんて河村らしくないな」
「私らしくない……ですか?」

 上目遣いでちらっと見ると、主任と視線が絡まった。

「アイディアも意見もしっかり持ってて、ハキハキ発言する河村を、俺はいつも頼もしく思ってるんだけどな」
「あ……」
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