諸々の法は影と像の如し
第九章
「ねぇ守道。宮様の賀茂社参拝ってさ、やっぱり予定通り行われるの?」

 安倍家の一室で、打ち合わせにきた守道と対座するなり、章親が身を乗り出した。

「そりゃあ。公式行事でないとはいえ、宮様が動くとなれば、準備が大変だ。そう軽々しく予定の変更は出来ないさ」

 賀茂社参拝はもうすぐだ。
 この時点で何の連絡もないということは、やはり取り止めということはないのだろう。

「でもさ。まだ人食い物の怪の事件は解決してないよ? 肝心の物の怪も捕えてないのに、こんな時期に危ないじゃない」

「こんな時期だからだよ。襲われてるのは貴族だろ。宮中にまで被害が広がりそうな今こそ、お上の孫であられる宮様が、自ら賀茂社に加護をお願いするんだ」

「え、今回の賀茂社参拝は、そのため?」

「ああ。不穏な動きは、結構前からあったみたいなんだな。今回の事件も、初めは洛外とか、民が襲われるってんで、あんまり大事にならなかったんだ。遠くの民のことまで把握しきれないし、山犬に襲われることだってあるだろ? でもそれが、だんだん都の中まで入って来た。襲われるのも貴族になり、その手口も山犬でないことがわかった。徐々に宮中に魔の手が伸びてるってのに、打てる手を打たないわけはないだろ」

「危険を冒しても、宮様直々に賀茂社に祈祷をお願いするの?」

「打てる手は打つってことだよ。宮様は斎宮も務められる最高の巫女だぜ。神々しい存在だから、物の怪なんかに食われることはない、ということだろ」
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