29歳、処女。







「………おはようございます」



思わず声がおかしくなってしまった。


だって、休日に会社の外で喜多嶋さんに会うなんて、初めてだから。



「おう。今日は遅刻しなかったな」



にやりと笑った喜多嶋さんは、もちろんいつものスーツ姿ではなく、ワインレッドのジャケットに白いシャツ、モスグリーンのジーンズというラフな格好。


すっきりとした細身のシルエットが、スタイルのいい身体によく似合っている。



やっぱりかっこいい人だな、と思いながら、私は高架下のショーウィンドウにうつった自分の姿を見た。



『お前の中で精一杯おしゃれな私服を着てこい』



昨日の晩、別れ際にそう言われたから、寝る前に一時間もかけて、今日の服を考えた。


淡いピンクのワンピースに、黒のカーディガン。

ダークブラウンのレースアップシューズ。


なかなか決まっているんじゃないかと、思っているんだけど………。



「―――ふうん。やっぱりな」



喜多嶋さんは私の全身をさっと眺めてから、険しい表情でうなずいた。



「それがお前の精一杯か。まあ、期待はしてなかったけど」


「………」



< 24 / 97 >

この作品をシェア

pagetop