29歳、処女。
*
「………おはようございます」
思わず声がおかしくなってしまった。
だって、休日に会社の外で喜多嶋さんに会うなんて、初めてだから。
「おう。今日は遅刻しなかったな」
にやりと笑った喜多嶋さんは、もちろんいつものスーツ姿ではなく、ワインレッドのジャケットに白いシャツ、モスグリーンのジーンズというラフな格好。
すっきりとした細身のシルエットが、スタイルのいい身体によく似合っている。
やっぱりかっこいい人だな、と思いながら、私は高架下のショーウィンドウにうつった自分の姿を見た。
『お前の中で精一杯おしゃれな私服を着てこい』
昨日の晩、別れ際にそう言われたから、寝る前に一時間もかけて、今日の服を考えた。
淡いピンクのワンピースに、黒のカーディガン。
ダークブラウンのレースアップシューズ。
なかなか決まっているんじゃないかと、思っているんだけど………。
「―――ふうん。やっぱりな」
喜多嶋さんは私の全身をさっと眺めてから、険しい表情でうなずいた。
「それがお前の精一杯か。まあ、期待はしてなかったけど」
「………」