29歳、処女。







―――それにしたって。



「………き、喜多嶋さん………無理です、無理です、この店は無理!!」



喜多嶋さんが手招きをしている店の前で、私は必死にふるふると首を振った。


だって、喜多嶋さんが私を連れてきたのは、いかにも高級そうな店構えの服屋さん。

ブランド物の服、というやつだ。


ショーウィンドウに並べられたマネキンたちも、まるでトップモデルみたいにシックでスタイリッシュな服を着ている。

バッグや靴も、もちろんかなり高そうだ。



どう考えたって、私なんか場違いもはなはだしい。


それなのに、喜多嶋さんは、険しい表情で「おい、雛子」と低い声で呼んだ。



「いつも言ってるだろうが。何でも取りかかる前に『無理』なんて言うなって。『できる限りやってみます』が正解だ!」


「それは仕事の話でしょう! こんな私がこんなにおしゃれな店に入るなんて………無理です! 店の人に迷惑です!」


「また『無理』って言ったな! このバカ雛子め」



喜多嶋さんがさらに顔を険しくして、私の頬を両手でつまんだ。


痛い。

けっこう本気じゃないですか。



私は泣きそうになりながら「申し訳ありません」と謝った。


喜多嶋さんがふふん、と笑う。



「どうせこうなるんだから、最初から口答えなんかするな。さ、入るぞ」


「えー……」



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