29歳、処女。
「あっ、その前に」



喜多嶋さんが唐突に声をあげた。



「お前さ、ちょっとそこの鏡で自分、見てみろよ」



喜多嶋さんが指差しているのは、細長い全身鏡。


言われるがまま、私はその鏡の前に立つ。



………いつも通りの私だ。


何の変哲もない、可もなく不可もなく、な私。



すると、鏡の中の私の背後に、すらりと背の高い影が立った。


腕を組んで、鏡越しに私の姿を見ている。



「ほら見ろ、こういうところ」


「え?」



喜多嶋さんが示しているのは、私の首のあたりだ。


ワンピースの下に着た、黒いタートルネックのインナーが覗いている。



「………なにか変ですか?」



白にするか黒にするか悩んで、結局カーディガンに合わせて黒にしたんだけど、やっぱり白のほうが良かったかな。



「いや、変とかじゃなくて。………ほら、こういうとこもな」



次に喜多嶋さんが示したのは、足下だ。


これも同じく、カーディガンに合わせて黒のタイツを履いてきたんだけど。



「あ………やっぱ黒じゃないほうが良かったですか。ですよね、黒ばっかりだと重たい感じに………」


「アホか、ちがうよ。そういうことじゃないんだって」



喜多嶋さんは心底呆れたように溜め息をもらした。



「え、じゃあ、どういうことですか?」




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