29歳、処女。
LESSON 5
LESSON 5

Last Lesson - Makeup







電車を降りて駅を出て、夜道を並んで歩く。


………手をつなぎながら。


このままだと吐いてしまうんじゃないかというくらい、心臓がばくばくと動悸しつづけている。



あと数分も歩けば喜多嶋さんの住むマンションに着くはずだ。


でも、それまで心臓がもちそうにない。



「………あのー、喜多嶋さん」


「あ?」



喜多嶋さんが見下ろしてくる。



「これはいったい、どういう状況なんでしょうか」


「その質問、二回目だな」


「いえ、でも、さっきと状況がちがうので」



私はつないだ手に視線を落とした。


すると喜多嶋さんの手にぎゅっと力がこめられる。



「これか? 捕獲してるんだよ」


「………捕獲」


「逃亡されないようにな」



喜多嶋さんが余裕の笑みでにやりとした。



「………しませんよ、逃亡なんて」


「そうか? ならいいけど」



そう言いつつも喜多嶋さんは手を離さない。


私は諦めてされるがままにすることにした。



無言のまま歩きつづける。


でも、頭はまだぼんやりしていて、自分の置かれた状況がつかみきれない。



喜多嶋さんは何を考えているんだろう?


追いかけろとか、告白しろとか言っておいて、

『行かせない』と言った。




< 85 / 97 >

この作品をシェア

pagetop