逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~

 ハウスキーパーは、家庭の事情を聴きだす行為はいっさい禁じられているのだが、こんな状況の夫人を見れば、話し相手になることの方が、元気を出してもらえるような気がした。


「ええ……あまり気乗りしないのだけど」


 沙耶の問いに彼女はうなずいた。


「気乗りしないのはどうしてなんですか?」


 もしかして折り合いが悪いのだろうかと気になった。

 けれどそうではないらしい。


「実はね、この家、主人が退職後に買った家なの。若い頃はもっと都心の大げさな家に住んでいたのだけれど、喧騒から少し離れてゆっくり暮らそうって……私の好きな紫陽花をたくさん植えてくれてね。思い出がたくさんあるの。だから、離れがたくって……」


 そう話す夫人の顔が、ほんの少し穏やかなものになる。



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