逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
髪を乾かして中庭に面したリビングルームに向かうと、先にシャワーを浴びた基が、ワインが入ったグラスを片手に、まどろんでいた。
「基……落とすわよ」
彼の手からかろうじて指先に引っかかっているワイングラスをとって、テーブルの上に置く。
それでも起きる様子はない。
昨日、今日と、移動も多かった。気が張って疲れているのかもしれない。
沙耶は立ち上がり、一階の主寝室からブランケットを持ってきて、彼の膝にかけた。
ひんやりした風を感じて振り返ると、換気のために少しだけ開けたガラス窓から冷たい外気が吹き込んでいる。
そよぐカーテンを見ていると、その向こうになぜか唐突に、元気だった頃の母の幻が見えた。
『さぁや』
母は沙耶を呼ぶとき、少しのんびりした声で『さぁや』と呼んだ。
本当に、絵本から抜け出したような、儚い夢のような人だった。