逆境シンデレラ~御曹司の強引な求愛~
名前を呼んで手を伸ばすと、沙耶はジリッと後ずさり、手の甲で唇を押さえうめくようにつぶやいた。
「……さ、最低っ……!」
そして大きな目に涙を浮かべると、
「野蛮人っ!」
と、叫んで、ぽろぽろと涙をこぼす。
基がいきなりキスされたことにかなり腹を立てていると気づいたのは、そうやって沙耶から罵られてからである。
「えっ……あの、えっと……」
しまったと思ったがもう遅い。
生まれてこのかた、こうだと思った女性に本気で拒まれたことなどない基は、こういう時にどう謝ったらいいかなど分からない。
「沙耶ちゃん、どこー!」
「潤くん!」
呆然と立ち尽くす基を押しのけて、沙耶は自分を呼ぶ声に向けて走り出す。
振り返ったがマノロ・ブラニクを履いた沙耶の足は速かった。
エレベーターに向かって走り出す沙耶は、風の妖精のように軽やかで、もはや基の手は届かないところまで行ってしまった。