桜前線
話してみてくれませんか?
「…すけ、優介!!早くしないと学校遅刻するわよ。」
母の呼びかけに我に返り僕は現在(ここ)に戻ってきた。
まぶたが重く腫れている。
泣き顔に気づかれぬよう、僕は少し荒々しく冷たい水で顔を洗った。
食パンを口に放り込んで、片方の肩だけにカバンをかけて外に出た。
学校に向かったつもりだったけれど、学校へ行く気になんてなれなかったのも確かだ。
そして気づけば僕は朝陽と出会った公園に来ていた。
「あら、この間の…」
そう声を掛けてきたのは朝陽の母だった。
僕は立ち上がり頭を下げる。
「あなた、学校は?」
想定内の質問ではあったけれど、いざ聞かれると気まずい。
「春は、どうしてもつらくて。」
少しの沈黙のあと、僕はそれだけ答えた。
なぜ?と言うように朝陽の母は首を傾げた。
詳しく話す必要はないのかもしれなかったけど、僕はその経緯を簡単にまとめ、矢継ぎ早に話した。
実の母にも話したことのない気持ちを、この間初めて会った人に話しているなんて、不思議で自分でも驚いた。
でも今思えば、だからこそよかったのかもしれない。
「それ、もしよかったらですけど、朝陽に詳しく話してやってくれないかしら。夕方には幼稚園から帰ってこの公園に来ますから。」
本当に一瞬だが、朝陽の母の瞳がつらそうに揺れた気がして、僕は理由を聞くのをやめた。
僕は朝陽の母の勧めに素直に応じ、そのあと大遅刻をして学校の門をくぐった。案の定担任に怒られたが、そんなこと考えられないほど、夕方のことで頭がいっぱいだった。
なぜ、朝陽の母はつらそうな目をしたのだろう。
なぜ、僕の気持ちを朝陽に話すのだろう。
疑問や少々の不安を抱えつつ、学校を終えて約束通り公園へ。
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