『それは、大人の事情。』【完】
ヤダ……私ったら何トキめいてるんだろう。でも、会社で厳しい顔で仕事している部長と、今目の前で笑ってる部長は、まるで別人。とても同一人物とは思えなかった。
「ほら、早く食わないと焦げるぞ」
「あ、はい……」
悔しいけど、すっかり部長のペースに引き込まれてる。こうなったら遠慮なんかしないでガッツリ食べて帰ろう。
そう開き直り、次々に運ばれてくるロースやカルビを網の上に乗せ極上肉を堪能した。
「文句言ってたわりには、結構食ったな」
勝ち誇った様にフッと笑い前髪をかき上げる部長。その仕草がとても色っぽくて、再び心臓がドクンと跳ねた。
すると昨夜の彼の逞しい裸体とトロける様な優しい愛撫を思い出し、体がジンと熱くなる。
―――この後、どうするんだろう?
私は無意識に期待していたのかもしれない。再び彼の胸に抱かれる事を……でもそれは、愛じゃない。私が求めているのは部長の心ではなく体。
ほろ酔い気分でちょっと大胆になった私は、部長の左手に自分の指を絡め上目使いで彼を見つめた。部長もそれに応え、私の指をゆっくり弄ぶ。
で、「俺の部屋に来るか?」って、あっさり誘ってきた。
「部屋に?行ってもいいの?」
予想外の言葉。大抵の男は、本命の彼女に疑われるのを嫌がりセフレの女を自分の部屋に入れたからない。
「別に構わないさ」
「バレて困るような女(ひと)……彼女とか、いないんですか?」
探る様に聞くと、なぜか彼が驚きの表情を見せた。
「何言ってんだ?俺の彼女は、朝比奈……お前だろ?」