『それは、大人の事情。』【完】
「私が……部長の彼女?」
さすがにこの言葉には驚き、絡めていた指の動きが止まる。
「そりゃそうだろ?寝たんだし」
確かに私達は昨日、寝た。でもそれは、愛情があったからじゃなく、欲望を満たす為。部長だってそうだと思っていたのに……
そんな事を考えいたら部長が私の手を引き立ち上がる。
「行くぞ」
店の外は激しい雨。さり気なく部長に傘をさし掛け駐車場まで来ると、私はさっきの部長の言葉を否定した。
「勘違いしないで下さい。私は部長の彼女になったつもりはありません。あくまでも大人の付き合いで……」
けど、まだ言い終わらない内に伸びてきた腕に肩を掴まれ部長の黒いセダンに押し付けられた。その反動で持っていた傘が手から離れ回転しながら宙を舞う。
大きく仰け反った体。私の顔に無数の雨粒が落ちてくる。そして降りしきる雨は部長の怒りに満ちた顔も濡らしていく。
「大人の付き合い?なんだそれ?」
身動きが取れず無抵抗な私を眼鏡を外した部長が睨み付けた。
「だから、セフレですよ……部長もそのつもりだと思ってましたから……」
「誰がセフレなんて言った?」
そう怒鳴った直後、部長は予想外の行動に出た。私の後頭部を抱え強引に唇を重ねてきたんだ。
えっ……なんで、この場面でキスなの?
意表を突かれワケが分からない。気付けば、部長のキスを拒む様に首を振っていた。