『それは、大人の事情。』【完】
さり気なくボディータッチする白石蓮を上目遣いで見つめ、ゆるふわの髪を指に巻き付けて可愛さをアピールしてる。
多くの人が行き交うエントランスで更に顔を近づけ、今にもキスしそうな雰囲気だ。そんな二人を見て、私は心の中で呟いていた。
―――そうだよね。彼だって、十歳も年上の私より、同年代の可愛い彼女の方がいいに決まってる。私ったら、珍しく若い子に言い寄られていい気になっていたんだ。
あの容姿だもの。声を掛ければ大抵の女子なら彼になびくはず。私みたいに拒む女は珍しい存在だったのかもしれない。だから面白がって、ちょっとちょっかいを出してみた……そんなとこだろう。
彼にとって私は、その程度の女。
そう思ったらなんだかスッキリして、彼に謝る必要なんてないと思った。このまま嫌われた方が清々する。
だから背筋を伸ばし、堂々と二人の前を通り過ぎビルを出た。そして、どんよりとした雨空を眺めドット柄の傘をさして駅に向かう。
電車に乗ると真司さんに書いてもらった幼稚園までの地図を広げ、下車したのと同時に走り出す。
時間は五時五十分。なんとか間に合った。
学童の先生に挨拶をし、期待を込めて無表情の沙織ちゃんに笑顔で右手を差し出すが、予想通り、沙織ちゃんはその手を取る事なく私の横をすり抜けて行く。
先生の表情が少し曇った様に見えたが、気にせず頭を下げるとピンクの傘を広げた沙織ちゃんに続いて幼稚園の門を出た。