『それは、大人の事情。』【完】
こんな時、本当の母親なら上手く対処するのだろう。でも私はまだ会ったばかりの赤の他人。どうしても嫌われたくないという気持ちが先に立つ。
「じゃあ、その結花ちゃんの家に行ってみようか? どこに住んでるか知ってるの?」
やっと泣き止んだ沙織ちゃんがコクリと頷き立ち上がった。マンションを出て沙織ちゃんが指差したのは、すぐ近くにある高層マンションだった。
「あそこの三十階が結花ちゃんのお家。一人で行けるから付いて来ないで」
そんな事言われても、六歳の子供を一人で行かせるワケにはいかない。取りあえずマンションまで送る事にした。
玄関を入るとすぐにもう一つ扉があり、オートロックになっている。沙織ちゃんは慣れた感じで扉横のタッチパネルに暗証番号を入力し、開いた扉の中に入って行く。
よほど親しい仲じゃないと暗証番号なんて知らないよね?きっと、家族ぐるみの付き合いをしていて、しょっちゅう遊びに来てるんだ……
そういう関係ならこの時間にお邪魔しても迷惑じゃないかもしれない。でも、常識として、どうなんだろう?
「沙織ちゃん、ホントに一人で大丈夫? お姉さんが行って挨拶した方がいいんじゃない?」
「だから、そんな事しなくていいの!」
沙織ちゃんはかなりイラついている。これ以上引き止めたらまたヒステリックに泣き叫ぶかもしれない。そう思うと強く出れなかった。
「そう? じゃあ、帰る時は電話してね。迎えに来るから……私の携帯番号、今メモする……」