『それは、大人の事情。』【完】

私という人間を全否定されたみたいで、もう何もかもイヤになる。


自分の仕事を犠牲にして真司さんと沙織ちゃんの為に一生懸命頑張っているのに、なぜ私だけがこんな辛い思いしなきゃいけないの?


このマンションに来て、徐々に蓄積されていった不満。それが一気に爆発し、お弁当箱を壁に投げ付け狂った様に泣いた。でも、ひとしきり泣いて気持ちが落ち着てくると、今度は不安に苛まれる。


一緒に住むようになって、沙織ちゃんは私の作った食事をほとんど食べてない。こんな状態が続いたら、沙織ちゃんは間違いなく栄養失調になって体調を崩す。


そんな事になったら私のせいだ。私を信頼し、もう一人のママだと言ってくれた真司さんの期待を裏切る事になる。最悪、彼に嫌われるかもしれない。


なんとかしないと……


焦りスマホを手にした私は検索を繰り返した。そして見つけた"キャラ弁"という文字。


これだ! と思った。もちろん作った事などないが、こんな可愛いお弁当なら沙織ちゃんも喜んで食べてくれるはず。


断然ヤル気になり、ついさっきまで泣いていた顔に笑みが漏れる。その時、玄関のドアが開く音が聞こえた。


真司さん、帰って来たんだ……


慌てて床に散らばったお弁当の中身を拾い集め振り返ると、キッチンに現れたのは真司さんではなく、沙織ちゃんだった。


「あ……迎えに行くつもりでいたのに、一人で帰って来たの?」


そう声を掛けたが、沙織ちゃんは無言で自分の部屋に入ったっきり、出て来る事はなかった。


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