『それは、大人の事情。』【完】
けど、その行動が火に油を注いでしまったみたいで、部長は私の頬を両手で押さえ、歯が触れる程強く唇を押し当ててきた。
「んんっ……部長……やめ……て」
いくらなんでも、こんな公衆の面前でキスされるのは抵抗がある。その後もイヤだという意思表示のつもりで手足をバタつかせるが、その度に部長に動きを制止された。
私の唇を無理やりこじ開け侵入してきた硬い舌が、何かを確かめる様に口内をゆっくり動き、そして、いとも簡単に私の舌を絡め取る。
熱い吐息と共に、再び濃厚なキスが私を襲い意識が朦朧としていく……
空気が足りない……苦しい。
こんなのイヤだと思っているのに、心とは裏腹に体は素直に反応していた。いつしか貪る様な荒々しいキスに体の芯が沸々と燃え上がり、冷たい雨粒さえも心地いい刺激に思えてくる。
あぁ……こんなキス……初めて。溶けてしまいそう……
程なく理性は崩壊し、ずぶ濡れになりながら夢中で彼の背中に手をまわしていた。あんなに抵抗してたのが嘘の様に、自らその唇を求めて艶めかしい声を漏らす。
なのに、部長はその気になった私を突然解放し、車のドアに手を掛けた。
「乗れ」
「えっ?」
激しいキスの余韻に浸る間もなく一気に現実に引き戻された私は、戸惑いながら地面に落ちた傘を拾い上げ助手席のドアを開ける。
「あの、シート濡れますけど……」
「構わない。サッサと乗れ」
なんなの?突然怒ったと思ったらキスしてきて、こっちがその気になったら急にやめちゃう。この人、いったい何考えてんだろう?