『それは、大人の事情。』【完】

そんな否定的な事を考えていたけど、本心は違ってた。もう男に愛など求めないと決めたのに、セフレじゃなく彼女だと言われただけで、こんなにも心が揺れている。


もしかしたら、また普通の恋が出来るんじゃいか……なんて期待してる自分がいた。


そんな気持ちに驚き戸惑っていると、部長が後部座席にあったタオルを取り、私に手渡してくる。


「濡れちまったな。これで拭け」

「あ、はい……すみません」


短い会話を交わし、渡されたタオルで濡れた髪を拭こうとしてハッとした。


この香り……


厚手のフカフカのタオルから香ってきたのは、とても男の部長が好むとは思えない甘い香り。


部長ったら、こんな香りの柔軟剤使ってるの?……なんだか可愛い。と微笑んだけど、そのタオルを改めて見直した時、私の笑顔は消えた。


ピンク地に赤いハートが散りばめられたタオルは、どう見ても彼の物じゃない。


そういう事か……


例え一瞬でも、部長の彼女になれると期待した事を激しく後悔する。


あんな情熱的なキスをされて舞い上がり、部長の言葉を鵜呑みにするなんて……私って、ホント、バカだ。


部長には女がいる。それも、私よりずっと若い女が……なのに、私を彼女だなんてよく言えたものだ。


タオルをギュッと握り締め隣の部長を横目で睨み付けていたら、車が見覚えのある坂道を上りだす。


「部長、どこ行くんですか?」


声を荒げてそう聞くと、部長は「お前のマンションはあれか?」って坂の上の建物を指差した。それは、正しく私が住むマンション。


「とうして……分かったの?」


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