『それは、大人の事情。』【完】

「えっ?」

『梢恵さんが気にしてるのは、部長さんの事でしょ? そのくらい分かるよ』


図星だったけど、機嫌が悪そうな白石蓮をこれ以上刺激しちゃマズいと思い「そんな事ない」と必死で否定する。


『分かったよ。じゃあ、俺の知ってる事全部教えてあげる。月曜日に梢恵さんの仕事が終わったら会社の裏口にあるあの自販機の前で待ってて』


それは困る。定時に仕事を終えたらすぐに沙織ちゃんを学童に迎えに行かなきゃいけない。彼と話してる時間なんてない。


「……ごめん、仕事終わりは無理なの。電話じゃダメかな?」


自分勝手な事を言ってるってのは分かっていたけど、それ以外、彼とゆっくり話す方法がない。でも白石蓮は、私の提案を即行で拒否した。


『それはダメだよ。梢恵さんと直接会って話したい』

「……君も知ってるでしょ? 平日は真司さんの娘のお迎えがあるの。どうしても時間が取れない』

『だったら、今日はどう? 俺、カフェでバイトだからこっちに来てよ。昼過ぎなら暇になるし……』


二日続けて家を空ける事に抵抗はあったが、これを断ったら本当に彼の機嫌を損ねてしまう様な気がして、渋々承諾した。


起きてきた真司さんの朝食の用意をしながら、今度は私が嘘を付く。


「あのね、佑月の結婚式が近付いてるの。結婚祝いを買いに行きたいんだけど……今日のお昼過ぎ、出掛けてもいいかな?」

「森下の結婚祝い?」

「うん、他の課の同期の娘達と一緒に見に行こうって話になったの」


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