『それは、大人の事情。』【完】
「―――俺、喫煙室の掃除に行った時、聞いちゃったんだよ」
「聞いたって、何を?」
「部長さんが人事部の部長と話してるの……」
「人事部の部長と?」
白石蓮が言うには、真司さんが人事部の部長と話していたのを聞いたのは、真司さんが本社に異動になってすぐの事だったらしい。
彼は喫煙室で話してる二人が出て来るまでドアの外で待っていて、その会話をなんとなく聞いてた。真司さんの顔をハッキリ見たワケじゃなかったから、そんな事があったのを、すっかり忘れていたそうだ。
最近になって、喫煙室に居たのが真司さんだったと気付いたみたい。
「今思えば、そうだったんじゃないかなって……」
「そう、で、どんな会話だったの?」
「うん、離婚した妻からどうやったら娘を取り戻せるか……その方法を聞いてたよ」
「えっ? 沙織ちゃんを?」
「離婚の原因は向こうの浮気。離婚してすぐに自分は地方に転勤になって、泣く泣く娘の親権を元妻に渡したけど、本当は娘を引き取りたい。どうやったら娘を取り戻せるか……そんな話しをしてた」
真司さんは、私と付き合う前から沙織ちゃんを引き取ろうと動いていたの? そんなの聞いてない。今回、沙織ちゃんと一緒に住む事になった時も、幼稚園の夏休みが始まるまでって言ってたのに……
「それで人事部の部長に、一人で幼い子供を育てるのは仕事がら限界があるだろう。再婚でもして面倒見てくれる人がいればいいんだけどな的な事を言われてた」
再婚して、沙織ちゃんの面倒を見てくれる人……それって……