『それは、大人の事情。』【完】
―――それから一時間後、私は真司さんのマンションに居た。
あれからすぐ、逃げる様にカフェを出ると急いで帰宅し、休む間もなく乾いた洗濯物を取り込み夕飯の支度を始めた。真司さんは相変わらず沙織ちゃんにベッタリで、二人仲良くリビングでテレビを観ている。
そんな真司さんの姿を眺め、私がここに居る意味を考えていた。
彼は沙織ちゃんさえ傍に居れば、それでいいのかもしれない。私は沙織ちゃんを手元に置く道具に過ぎないんじゃ……
不安が増す中、夕飯を食べ始めたのだけど、沙織ちゃんはお腹がすいてないと早々に席を立つ。どうやら私が夕飯の用意をしてる間にショートケーキを三つも食べてしまったようだ。
「どうしてご飯の前にケーキを食べるの?」
「だって、ケーキ食べたかったんだもん」
「それならご飯食べてからにすればいいでしょ?真司さんも一緒に居たんだから注意してくれないと困るよ」
いつまで経っても私の作る食事を食べてくれない沙織ちゃんに苛立ちを感じ、つい強い口調になってしまう。
「ケーキを食べたくらいで、そんなに怒らなくてもいいだろ? もういい。風呂に入ってくる」
沙織ちゃんを叱った事が気に入らなかったのか、真司さんまでムッとして席を立ってしまった。
誰も居なくなった食卓で、ほとんど手を付けられなかった食事を眺め泣きそうになる。
こんな事が続いたら、私と真司さんまで険悪な状態になってしまう。でも、このまま沙織ちゃんを甘やかしていいんだろうか?