『それは、大人の事情。』【完】
「あの、それで、怪我の具合は?」
「はい、頬や額に引っ掻き傷が数か所。腕には噛み付いたみたいで歯型が残ってました」
相手が骨折でもしてたらどうしようかと思ったが、私が想像してたより怪我が軽かった事に少しホッとする。でも、怪我をさせてしまった事に変わりはない。
沙織ちゃんは怒るとヒステリックになり、手が付けられない状態になるのは知ってる。私も前に蹴られた事あったもんな……
「それで、原因はなんだったんてすか?」
「それが……分からなくて……沙織ちゃんに聞いても何も言ってくれないんです。そうこうしてたら怪我をした子のお母さんがお迎えに来て、沙織ちゃんの親を呼べと怒り出しまして。本当に申し訳ありません」
また何度も頭を下げる先生が気の毒になり、私も迷惑を掛けた事を詫び、相手の親御さんに謝罪をしたいので会わせて欲しいとお願いした。
案内された応接室には、学童の責任者も兼任している幼稚園の園長先生と、顔に引っ掻き傷がある女の子とその母親、そして、沙織ちゃんが居た。
母親は私を見るなり「どうして沙織ちゃんのママが来ないの?」と苛立ちを隠せない様だった。事情を説明し、今は私が母親代わりだと告げると、呆れた顔でため息を付く。
「そういう家庭環境だから、沙織ちゃんが情緒不安定になって暴力を振るったんじゃないの?なんの関係もないウチの娘を巻き込まないで欲しいわ!」