『それは、大人の事情。』【完】
「その事は、もういいの……」
「いいって……なんで?大切な事でしょ?」
白石蓮が私を心配してくれてるってのは分かっていたけど、今その事に触れられたくなかった。
「だから、いいって言ってるでしょ?君には関係ない事なんだから!」
声を荒げ彼の手を振り払うが、白石蓮は怯む事なく真剣な顔で、真司さんと話し合った方がいいと言ってくる。その必死な姿を見ていたら、徐々に怒りの感情は薄れ、悲しみの感情が勝(まさ)っていった。
「話し合いの必要なんてないから……ホントに、もういいの」
「それ、どういう事?」
「……真司さんとは、終わりだから……」
その言葉を口にしたとたん涙が溢れ出し、もう自分の気持ちをコントロールする事が出来なくなっていた。手で顔を覆い止めどなく流れる涙を隠すのが精一杯。
「うそ……」
「嘘なんかじゃない。彼は別れた奥さんとやり直すの。もうすぐ私と真司さんの関係は終わるんだよ!」
しゃくり上げながら叫ぶと、白石蓮は無言で私を抱き締め優しく背中を擦ってくれた。
「大丈夫だから。梢恵さんには、俺が居る」
十歳も年下のくせに生意気な事言わないでって言いたいとこだけど、今は、白石蓮の優しさが胸に沁みる。
そして、何もかも失しなってしまうんじゃないかと恐怖に怯えていた私の心に響いたのは「梢恵さんは、一人じゃない」という彼の言葉だった。