『それは、大人の事情。』【完】
「早く戻っておいでよ。梢恵さんのマンションに。で、また、カフェに来て?」
そうだ。私は全てを失ったワケじゃない。ちゃんと戻る場所があったんだ。
そう思ったら気持ちがフッと楽になり、少しだけ笑顔になれた。
「そうだね……有難う」
子供だと思っていた白石蓮は、私が思っていた以上に大人なのかもしれない。そんな事を考えながら涙を拭い顔を上げた時だった。額に柔らかく温かいモノが触れた。
「えっ……」
不意をつかれ動けないでいると、彼は私の髪を撫で、今度は頬にキスをする。
「ダメ……やめて」
「なぜ?俺が十歳も年下だから?」
「それも……ある」
「って事は、他にも理由があるだ?」
そんな会話を交わしている間も、彼は私を強く抱き、髪に、耳に、そして首筋に唇を這わす。
「もしかして、気付いていないの?君が私に求めてるのは女じゃなく母親だって事。私、亡くなったお母さんに似てるんでしょ?」
白石蓮の動きが見事にピタリと止まり、私をマジマジと見つめる。図星だったのかと思った次の瞬間、彼はケラケラと笑い出した。
「梢恵さん、そんな風に思ってたんだ。だから俺の事拒んでたの?言っとくけど、母親だと思ってる人にキスしようなんて思わないから。ましてや抱きたいなんて思わない」
「だ、抱きたい?」
「そう、俺、梢恵さんが欲しい。めっちゃ抱きたい。今すぐにでもここで俺のモノにしたいって思ってるよ」