『それは、大人の事情。』【完】
「部長さんから?」
見るからに不機嫌な表情の白石蓮が、コクリと頷く私を再び引き寄せ「出ないで」と言った。でも、平静を取り戻した私は、彼の腕の中でその電話に出た。
真司さんは、ゆっくり帰ってくればいいと言ったけど、思った以上に私の帰りが遅いので心配になり電話を掛けてきたみたい。
『大切な話しがあるからなるべく早く帰って来てくれ』
「―――分かった。すぐ帰る」
電話を切り「いよいよか……」って呟く私に、白石蓮は「帰らないで」と迫る。
「ごめん……どうしても帰らなきゃいけないの。だから放して」
「なら、次いつ会えるか……今決めてよ。じゃないと放さない」
白石蓮をその気にさせてしまった事を後悔しつつ、とにかく今は彼を納得させ解放してもらうのが最優先だと考えた。
「じゃあ、君の誕生日ってのはどう? もうすぐなんでしょ? いつ?」
「七月二十五日だけど……」
「二十五日か……来週の土曜日だよね。その日でいい?」
「うん……いいよ」
白石蓮の腕の力が抜け、やっと私を放してくれた。
「二十五日はカフェのバイト休ませてもらうから。約束だよ」
「約束する。前の日に電話するから」
まだ少し半信半疑って感じで、私に疑いの眼差しを向ける白石蓮を残しオフィスを出ると、駅へと向かう。
あんな約束して良かったのかな?
少し不安になったけど、今は白石蓮の事を考えている余裕などない。私の頭の中は、真司さんとの別れ話しの事で一杯だった。