『それは、大人の事情。』【完】
でもこれで、私も吹っ切れた。どうせ別れるなら未練がましく泣いたりせず、スマートに別れよう。今までだってそうしてきたんだもの。フられるのは慣れっこだ。
だから必死で笑顔を作り、明るい声で聞いてみた。
「それで、真司さんはいつ、あっちに行くの?」
「あっち?」
「沙織ちゃんと絵美さんの所だよ。また三人で一緒に暮らすんでしょ?」
私がそんな事言うとは思ってなかったのだろう。彼は驚き絶句してる。
「もういいから本当の事言って。私の事は気にしなくていいから」
でも真司さんは口を半開きにして私を見つめたまま何も言ってくれない。
「真司さんは沙織ちゃんと暮らしたくて私と付き合ったんでしょ? でも、絵美さんとよりを戻したのなら、もう私は必要ないよね? 私達……終わりなんでしょ?」
精一杯の強がり。それに、そう言えば真司さんも別れ話しがし易いと思ったんだ。でも……
「梢恵、お前、さっきから何言ってんだ?」
「えっ? 何って、別れ話し……」
呆れ顔の真司さんが半分ほど灰になった煙草をもみ消し、私をギロリと睨む。
「梢恵は俺と別れたいのか?」
「えっ? あ、違う……別れたいって思ってるのは、真司さんでしょ?」
「やれやれ、とんだ勘違いだな」
そう言われても、何が勘違いなのかが分からない。
「だって、真司さんが大切な話しがあるからって……だから私……」
立ち上がった真司さんが、シドロモドロになってる私の横に座り、肩を抱く。
「俺は、梢恵と別れるつもりはないからな」