『それは、大人の事情。』【完】
「沙織ちゃんが、何?」
「沙織が絵美に言ったんだよ。『もうパパの事は諦めて』って……『パパはお姉ちゃんが好きだし、お姉ちゃんもパパが好き。ママは邪魔しちゃダメだよ』ってな」
「えっ……沙織ちゃんが、そんな事を?」
「あぁ、絵美には自分が傍に居るから俺を諦めろって」
沙織ちゃんが絵美さんを説得してくれたなんて……
本当はパパが恋しいはずなのに、また親子三人で一緒に暮らしたいはずなのに、全てを我慢して私の為に? ほんの二週間、一緒に居ただけの私の為に?
「沙織も辛かったと思う。でも、沙織は俺達を認めてくれたんだ。だから俺も沙織と一緒に暮らすのを諦めた」
「あぁ……真司さん」
私のせいで、沙織ちゃんも真司さんも、そして、絵美さんも悲しませてしまった。
堪らず真司さんの胸に顔を押し付け「ごめんなさい」と何度も呟いていた。止めどなく零れ落ちる涙が、私を抱く真司さんのワイシャツを濡らしていく。
それからどのくらい泣いていたんだろう。泣き疲れぐったりしていると、私から離れた真司さんがビジネスバックの中からハートが散りばめられたピンクのタオルを取り出し、ソッと差し出した。
「それって……沙織ちゃんのお気に入りのタオルだよね」
「そうだ。梢恵に渡してくれって、沙織に頼まれたんだ」
でも、沙織ちゃんが私に渡したかったのはタオルじゃなく、そのタオルに包まれていたモノ―――
「あっ、これは……」