『それは、大人の事情。』【完】
でも、それから数日。私はまだ、白石蓮に真実を伝えられないでいた。
少しでも早く白石蓮に言った方がいい。そう頭では分かっていても、なんだか白石蓮を裏切ってしまった様な気がして、後ろめたくてなかなか言い出せなかった。
それに、会う約束をしたのは彼の二十歳の誕生日だ。せっかくの誕生日なのに、今更断っていいものか……勇気が出ないまま気持ちばかりが焦る。
―――そして、白石蓮の誕生日まで後二日と迫った木曜日。仕事が一段落した午後三時の事だった。
コーヒーを飲み佑月と雑談していると、課長が私を呼び、困った表情で商品ファイルを見せる。
「一週間前に発注したドイツのソーセージなんだけどね、発注した直後に販売中止になったみたいで、在庫もないって事だから、よく似た他の商品と交換してもらえないかって言ってきたんだよ……」
「あ、でも、あのレストランは、もう何年もこのソーセージを注文してくれてますし、こだわりもあると思いますが……」
「そうなんだよな~それでだ。向こうの業者から十種類ほどサンプルが送られてきてるから、お詫びがてらそれを持ってお客様の所へ行ってきてくれ」
「えっ? 私がですか?」
「そう、販売部の担当者が出張中で、他の社員も出払ってて居ないからこっちで対応してくれって言われてね。お客様には連絡済だし、サンプルは地下の食品倉庫に届いてる。宜しく頼むよ。
あ、今からだと遅くなるなぁ~なんなら直帰してくれていいよ。返事はメールして」
「はあ……」