『それは、大人の事情。』【完】
問答無用って感じで謝罪に行かされる私を、佑月は悲壮感漂う顔で「可哀想な梢恵……」と見送ってくれたけど、どうせ今頃、自分じゃなくて良かったって、ほくそ笑んでいるはず。
ムッとしながら地下の食品倉庫でサンプル品を受け取り、会社近くの和菓子屋で手土産の菓子折りを買うと走ってきたタクシーに手を上げる。
タクシーに乗ってスマホのナビでレストランの場所を確認してみたら、意外にも私が以前住んでいたマンションに近い。
「ふーん、あのレストランそんな近くにあったんだ……」
二十分ほどでレストランに到着し、怒られるのを覚悟でお邪魔したんだけど、予想に反して、とても優しく対応してくれて、サンプルの中から改めて商品を注文をしてくれた。
予定していた時間より早く商談が終わってしまった。今から会社に戻ってもいいけど、せっかく直帰していいと言われたんだ。このまま帰らせてもらおう。
なんだか得した気分。でも、今からマンションに帰っても真司さんは遅くなるだろうし、一人でぼんやりテレビを観て過ごすのもつまんない。
あっ、そうだ! あのカフェに寄っていこう。ここからなら歩いて行ける距離だし、この時間なら白石蓮は清掃の方のバイトをしてるからカフェには居ないはず。
少し時間が経ってから会社に報告のメールをし、喜び勇んでカフェに行くと、オーナーが「こんな時間にどうしたの?」ってキョトンとした顔をする。
「サボったの。たまにはいいでしょ?」
「へぇ~珍しいね。まぁ、たまにはいいか」
何事も深く追求しないのがオーナーのいいとこだ。