『それは、大人の事情。』【完】
カウンターに座り、課長の事を愚痴っていたら、オーナーが「じゃあ、気分直しにいい事教えてあげる。これはまだ、蓮には秘密なんだけどね……」って、店の奥から一枚の図面を持ってきて、私の前に広げる。
「なんの図面なの?」
「ここのカフェの図面だよ。近い内に改装しようと思ってるんだ」
「えっ? このカフェ改装するの?まだ新しいのに」
「実はね、ギャラリーのスペースを造ろうと思ってさ。写真とか、絵画とか、お客さんの中に趣味でやってる人がいるし、発表の場になればいいかなってね」
「へぇ~素敵じゃない。でもどうしてあの子に秘密なの?」
首を傾げる私に、オーナーは声のトーンを落とし、辺りを気にしながら小声で言う。
「っていうのは建て前で、本音は、蓮にもう一度、写真を撮って欲しくてギャラリーを造る事にしたんだよ。ギャラリーのオープンを飾るのは、蓮の写真って決めてるんだ」
「そうなの?」
オーナーは、どうしても白石蓮にプロの写真家になって欲しくてギャラリーを造る決断をしたそうだ。
「あんなに好きで才能があった写真を辞めてしまうのはもったいないからね。蓮には何もしてやれなかったから、せめてこのくらいはね」
オーナー優しいな。こんな叔父さんがいて、彼は幸せ者だ。
「あ、でもあの子、カメラ手放したとか言ってなかった?」
そう言うとオーナーの表情が曇り、大きなため息を付く。