『それは、大人の事情。』【完】
「えっ?」
クールな部長が動揺して大きく目を見開く。その姿は私を満足させるには十分過ぎる反応で、ちょっぴり優越感に浸る事が出来た。
私から別れを切り出されるなんて思ってもなかったんだろう。ざまあみろだ!
すると部長が「理由は?」と未練がましく聞いてきた。
「セフレなら上手くいってたでしょうね。部長がその気もないのに、私を彼女なんて言うからです。本当は本命がいるんでしょ?」
「本命?」
素っ頓狂な声を上げ、部長がまじまじと私を見る。
「隠さなくてもいいです。せいぜいその彼女と仲良くやって下さい。私の話しはそれだけですから。じゃあ、これで失礼します……」
早くこの場を去りたくて、そう言った時には既に立ち上がっていた。けど部長は納得出来ないって顔で私を見上げてる。
「待てよ。俺に本命の女がいると思った根拠は?言ってみろ?」
……やれやれ、部長って意外としつこい性格なんだ……
「……タオルですよ」
「タオル?」
「そうです。車の中にあったハート柄の可愛いタオル。あれ、部長のじゃないですよね?」
これで部長も諦めるだろうと思ったのに、彼は何が可笑しいのか、急に大声で笑い出したんだ。
「クククッ……あのタオルでそこまで勘ぐるとは思わなかったな」
「な、勘ぐるなんて失礼な……女なら誰だってそう思いますよ!」
私がムキになって怒鳴っても、部長の笑いは止まらない。
「なるほどな。確かにあのタオルの持ち主は女だもんな」