『それは、大人の事情。』【完】

―――午後六時


約束の時間にレストランに到着したが、白石蓮はまだ来ていないようだ。


案内された窓際の予約席に腰を下ろすと、私の足元に置いたデカいカメラケースに視線を落としたギャルソンが遠慮気味に聞いてくる。


「お客様、宜しければ、そちらのお荷物お預かり致しますが……」

「あ、いえ、どうぞお気遣いなく」


カメラケースをテーブルの下に引っ張り込み、こんな荷物を持ってフレンチを食べに来る人なんて居ないだろうなと苦笑いを浮かべる。


そして、窓の外を眺め白石蓮が来るのをひたすら待った。しかし、三十分経っても彼は現れない。


どうちゃったの? もしかして、オーナーの企みがバレてヘソを曲げてしまったとか? いや、そんなはずはない。カメラの事を知っているのは、オーナーと奥さんだけ。あの二人がバラすなんてあり得ない。


でも、彼が来ない事に一抹の不安を覚え、連絡してみようとバックからスマホを取り出した時だった。白石蓮が息を切らし店に入ってきたんだ。


「梢恵さん、ごめん。ちょっと用事が長引いて遅くなっちゃった」

「用事があったの? なら、無理しなくても良かったのに……」


私もその方が良かったし……


「うぅん、そんな大した用事じゃないから。俺には、梢恵さんとの約束の方が大事だからさ」


そんな風に言われたら余計、話しづらくなる。取りあえずシェフのお勧めのコースをオーダーし、食前酒のシャンパンで乾杯したんだけど、なぜか白石蓮がソワソワして落ち着かない。


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