『それは、大人の事情。』【完】
「何? どうかしたの?」
「うん……トイレ……行ってもいい? 俺、こんな高級な店に来るの初めてだから緊張して……」
まるで子供みたいにオドオドしてる。その表情が妙に可愛くて、思わず吹き出してしまった。
「そんな緊張しなくて大丈夫だよ。早くトイレ行っておいで」
「そう? じゃあ、行ってくる」
速足でトイレに向かった白石蓮。相当慌てていたんだろう。立ち上がった拍子に自分のカバンが椅子から落ちたのも気付いてない様だった。
やれやれ、この前は、自分と寝てから付き合うか決めろなんて、偉そうな事言ってたのに……やっぱり、まだ世間知らずのおこちゃまだ。
床に落ちた彼のカバンを拾い上げ、椅子の上に置こうとした時、カバンの中から覗くあるモノに目が留まった。綺麗にラッピングされた四角い箱。一目見て、それが何かすぐ分かった。
「誕生日プレゼント……だよね」
あの子、私と会う前に誰かと会って、これを貰ったんだ。それで遅れてきた……相手は、きっと女性だろう。そう思った瞬間、なぜかとてもイヤな気分になった。
あの子は女の子にモテる。誕生日にプレゼントを貰っても全然不思議じゃない。なのに、どうしてこんな気分になるの? それに、私は彼と縁を切ろうとここに来たんだ。白石蓮に女が居るなら好都合じゃない。
そう思っても無性に心がザワつく。だから戻って来た彼にテーブルマナーを教えていても、カバンの中のモノが気になって仕方なかった。