『それは、大人の事情。』【完】
それからも白石蓮は結婚式の事をしつこく聞いてきて、段々いたたまれなくなってきた。これ以上、そんな話しをされたら冷静でいられる自信がない。だから嘘を付いた。
「……ごめん、やっぱ、少し寝むい……着いたら起こして」
どうしてそんなに楽しそうな顔して私の結婚式の話しをするのよ? こんな嫌な思いするなら無理して撮影旅行なんて来なければよかった。
来た事を後悔しながら窓にもたれ掛かり目を閉じる。そして……
「―――梢恵さん、起きて。もうすぐ着くよ」
「んっ……もう着いたの?」
寝れないかもって思っていたのに、結局、あれからすぐ眠ってしまった様で、二時間も爆睡していた。
「うん、もう後十分くらいで着くよ。それより梢恵さん、疲れてるんじゃない?」
「なんで?」
「だって、いびきかいてたし」
「うそ……でしょ?」
「なんで起こしてくれなかったのよ!」って顔面蒼白で白石蓮に食ってかかると、彼は小悪魔みたいな怪しい笑みを浮かべる。
「ふふふ……嘘だよ。いびきなんてかいてないって」
「はぁ? 何それ? 私の事からかったの?」
カッとして思わず彼を突飛ばそうとしたけど、白石蓮の反応が思ったより素早くて、私の攻撃を難なくヒョイとかわす。
行き場をなくした手は虚しく空を切り、バランスを崩した体は一直線に白石蓮の胸に飛び込んで行く。
「わわっ!」
ふわりと鼻孔をくすぐる爽やかなシトラスの香りと硬い胸。体の奥がジンと熱くなり、このままずっと、こうしていたと思ってしまう。