『それは、大人の事情。』【完】
イケナイと思えば思うほど、私の気持ちはこの子に傾いていく―――でも彼は、何事もなかった様に私を抱き起すと平然と話し出した。
「じゃあ、次は特急で二時間。その後、また乗り換えして汽車で一時間半だから」
「汽車?」
「うん、電車じゃなくて汽車。ディーゼルだからね。それを降りたら今度はバスで三十分くらいかな」
白石蓮の故郷って、ホントに凄い田舎なんだ……
でも、そんなのんびりとした各駅停車の汽車の旅は意外に楽しく、あのカフェで過ごしている時みたいな癒しの効果抜群だった。
窓から吹き込んでくる風はひんやりと心地良く、ゆっくり流れていく田園風景はずっと眺めていても全然飽きない。やがて車窓から見える景色は山林へと変わり、それを過ぎると徐々に民家が多くなってきた。
白石蓮の「もうすぐだよ」と言う声を聞いた直後に入った長いトンネルを抜けると、目の前に真っ青な海が現れた。
「わぁ~綺麗」
水面が太陽の光を反射してキラキラと輝き、微かに風に乗って潮の香が漂ってくる。そして、数分後に停車した駅で手動のドアを開け汽車を降りると、駅前に止まっていたバスに乗り込む。
「このバスに乗り遅れたら、今度は三時間後だからね」
「えっ? そうなの?」
「うん、田舎はそんなもんだよ」
そんなもんって……なんだか時間の感覚が全然違う。
今度はバスに揺られ、この町唯一の国道をひた走る。で、下車したバス停から歩くこと数分。白石蓮が指さした先にあったのは、海岸にそそり立つ岬。
「ほら、あの岬の先にある白い建物が、ばあちゃんが勤めてたリゾートホテルだよ」