『それは、大人の事情。』【完】
「あれが……?」
そのリゾートホテルを見て、本気で驚いた。こんな事言ったら申し訳ないけど、公共機関が三時間に一本のバスしかない場所にあるリゾートホテルだから、そんな期待出来ないなって思っていたんだ。
でも、岬に沿って緩やかな曲線を描きそそり建つ白亜の建物は、海に面した部分が壁一面硝子張りになっていて、海外の避暑地にあるリゾートホテルにも負けないモダンな造りになっていた。
「どう? わりといいホテルでしょ? どっかの金持ちがバブルの時代に建てて放置されてたのを地元の資産家が買い取って再オープンしたんだ。
利益度外視で新鮮な海の幸を格安で提供してるから、都会の人に結構人気あるみたいだよ」
「あぁ~……そういう事か~」
「俺もここに居た頃は、こんな田舎にわざわざ泊りに来る人の気持ちが分からなかったけど、ここを離れてなんとなくその気持ちが分かる様な気がしてきた」
そうだよね。最近は都会でも緑が多くなってきたけど、見渡す限り360度、山と海の大自然に囲まれたこことは比べものにならない。それに、空気が全然違う。
胸一杯に澄んだ空気を吸い込み深呼吸していたら、白石蓮がキャリーバックを引き、ホテルとは反対方向に歩き出す。
「ねぇ、ホテルに行くんじゃないの?」
「ホテルに行く前に行きたいとこあるんだ。付き合ってくれる?」
「あ、うん」
堤防沿いの密集した民家の間を縫う様に歩いて行くと、彼が一軒の古びた平屋の前で足を止め、徐にポケットから鍵を取り出した。
「ここ、俺の実家なんだ」