『それは、大人の事情。』【完】
「えっ……ここ、君が育った家?」
「そう、ばあちゃんが死んでから誰も住んでないけどね」
建て付けの悪い玄関の引き戸をガタガタ音をたて開け、白石蓮が中に入って行く。私も後に続き暗くてホコリっぽい匂いの中を進む。
彼が入った部屋は座敷。閉まっていた木の雨戸を全開にした瞬間、眩しい日差しが帯になって部屋に差し込み、舞い上がったホコリが光の中で揺らめいてる。
「めったに来れないから空気の入れ替えしたくてさ」
そう言うと、仏壇の下の開きから数冊の写真集を取り出しニッコリ笑う。
「それと、これを取りに来たんだ。これはね、母親の遺品の中にあった写真集なんだ。これを見て、俺も写真撮りたいって思う様になった」
いつかカフェのオーナーが言ってたのは、この写真集の事だったんだ……
「専門学校に行く時は、あえて持って行かなかったんだけど、やっぱり手元に置いておきたくて……」
「そっか、その写真集見てもいい?」
「うん」
両角が少し茶色く変色したその写真集の表紙を捲ると、色鮮やかな風景写真が現れた。
「この写真を撮ったのは、アレン・ノーマンって人で、風景専門の写真家なんだ。何気ない写真だけど、凄く計算されていて、自然の光を上手く取り入れてる。この構図なんて絶妙だよね~俺もこんな写真撮りたいな~」
一生懸命説明してもらっても、私には何が絶妙なのかよく分からない。でも、こんな熱く語る白石蓮を見たのは初めてだ。
「君の憧れの写真家なんだね」
「うん、めっちゃ憧れてる。一番尊敬してる写真家だよ」