『それは、大人の事情。』【完】
「でも、写真家にも色々あるんだね。風景写真専門とか人物専門とかあるんだ」
「それは人それぞれだけどさ。両方やってる人も居るし……このアレン・ノーマンって人は一切、人物は撮らないらしい。でも、彼の事調べたらインタビュー記事が載ってて、プライベート以外で人物を撮った事が一度だけあったって書いてあったんだ」
「一度だけ?」
顔を上げた白石蓮がコクリと頷き、写真集をパタンと閉じた―――
「そう、一度だけ……愛する女性をモデルにして……」
「えっ……」
愛する女性―――その言葉に特に深い意味はなかったのかもしれない。でも私には、いつになく真剣な彼の表情と揺れる眼差しが何かを訴えている様に見えた。
確かめたい。彼の気持ちを、本当の気持ちを確かめたい。でも、その視線はすぐに開け放たれた掃き出しに向けられる。
「じゃあ、そろそろホテルへ行こうか」
立ち上がった白石蓮は、もういつもの彼に戻っていて、はにかむ様な笑みを浮かべている。
また細い路地を行き、ホテルのある岬までの長い坂道を歩く。ようやくホテルに到着した頃にはヘロヘロ。日頃の運動不足を痛感する。けど、一歩ロビーに足を踏み入れた瞬間、その疲れは一気に吹っ飛んだ。
硝子張りの窓から見えるリアス式海岸と沖に浮かんだ大小様々な島、そして果てしなく続く水平線。それはまさしく絶景で、ため息が出るほど美しい。
言葉を失い景色を眺めていたら、横に並んで立った白石蓮が「朝日は向こうから昇ってくるんだよ」と沖を指さす。