『それは、大人の事情。』【完】
「……違います」
「えっ?」
そう、違う。私は彼の本当に好きな女性じゃない。
「私はただの写真のモデルですから……」
消え入りそうな声でそう呟き、白石蓮を追いエレベーターホールに向かう。
丁度到着したエレベーターに乗ると、最上階のボタンを押した白石蓮が「支配人と何話してたの?」って聞いてきたけど、私は「別に……」と言葉を濁し、点滅する数字を見上げた。
この子がここに来たのは、支配人に私を紹介する為なんかじゃない。自分が納得いく写真を撮る為。ただそれだけ……
エレベーターを降りた白石蓮は迷うことなくゴールドプレートのドアの前に立ち、鍵を開ける。
「ここが、このホテルのスイートだよ」
「うわぁ~広い」
さすがスイートだ。広々としたリビンクには、ホームシアターやバーカウンターがあり、その手前には高級そうなグレーのレザーソファー。さり気なく置かれた調度品の数々もこの部屋の雰囲気によくマッチしてる。
そして隣の寝室を覗くと、クイーンサイズのベットが鎮座していていた。でも、私が一番感動したのは、やっぱり壁一面硝子張りの窓から見える海だった。
「このスイートだけ、窓が開くんだよ」
観音開きに開け放たれた窓からは爽やかな海風が吹き込んできて、レースのカーテンを大きく揺らす。
「夕食は六時に二階のレストランに予約入れてあるからね。それまでここでゆっくりしてて」
「えっ? 君はどうするの?」
「俺は自分の部屋に居るから」