『それは、大人の事情。』【完】
不思議そうに首を傾げている白石蓮。どうして私が箸を持ったまま固まっているのか、その理由が分かっていない様だった。
「……ねぇ、それって、ヌードって事?」
恐る恐る聞いてみると、彼は実にあっけらかんとした顔で言う。
「な~んだ。梢恵さんそんな事気にしてたの?」
「そんな事って……大事な事でしょ?それに私、ヌードだなんて聞いてないし」
アタフタと取り乱し、危うくワインのグラスを倒しそうになる。でも彼は落ち着き払い、サザエの刺身を頬張りながら言う。
「俺に、裸見られるのイヤ?」
「あ……」
なんて答えていいか分からなかった。ここで拒否したら、三十間近の女が何言ってんだって笑われそうでイヤだったし、今更ドタキャンなんて大人気ないとも思った。
だけど、白石蓮の前で裸体を晒す勇気もない。だから何も言えず、まるで初心な少女の様に俯く事しか出来なかった。すると彼がワイングラスを静かに置き、ため息混じりに言ったんだ「ヌードじゃないよ」って……
「えっ……そうなの?」
「そんなに嫌がらなくてもいいって。結婚直前の女性に、そんな事お願いしないよ」
至って冷静にそう言う彼が、妙に大人びて見える。
「ただ、上半身は何も着けないで欲しいんだ。その代り、胸は絶対見えない様に撮るから心配しないで。それと、顔も撮らない。モデルが梢恵さんだって分からない様にするからさ」
見えない様に撮るって言っても、彼には見られるかもしれないんだ……それが一番気掛かりなのに……