『それは、大人の事情。』【完】
―――翌日、部屋のドアがノックされたのは、午前四時半だった。
私は白石蓮に言われた通り何も身に着けず一夜を過ごし、今も裸の上に薄いガウンを羽織っているだけの状態で、彼が手際よく撮影の準備をする様子をベットに座り眺めていた。
「じゃあ、ちょっと試し撮りするからそこに立ってくれる」
言われるまま開け放たれた窓の前に立ち、まだ暗い海を見下ろすとシャッターを切る音が響き、一気に緊張が高まってくる。
「梢恵さん、もっとリラックスして。普通にしてくれてていいんだよ」
そんな事言われでも舞い上がってしまって、普通がどんなだかも分からない。
「顔は撮らないから無理して笑わなくていいよ。どちらかと言えば、悲しそうな表情してくれてたほうがいい」
「そ、そうなの?」
「うん、例えば……恋人と別れて寂しいとか、そんな感じで」
―――恋人と別れて寂しい? それなら今の私そのままじゃない。相手は恋人じゃないけど……
窓際のソファーに座り、虚ろな目で窓の外を見つめると「それ、凄くいい」ってお褒めの言葉を頂いた。
その後も彼は私を上手に持ち上げ、その気にさせていく。そのお陰で、徐々に緊張が解れていい具合に体の力が抜けてきた。
「次はガウンを脱いで、これを羽織ってくれる」
彼に手渡されたのは、透感のある白い大きなクロス。撫でてみるとサラリとしたシルクの様な肌触りで、とても気持ちいい。
気を使ってさり気なく私に背を向けた白石蓮。覚悟を決めた私は、その背中を見つめながらガウンの紐を解く。