『それは、大人の事情。』【完】
「やっぱり、そうだったんだ……それで、私の事が気になったの?」
「……うん」
―――私が誰なのか……それを知りたいと思った白石蓮は、カフェに入りオーナーに聞こうとしたそうだ。すると、カフェの窓から立ち止まって空を見上げている私の姿が見えた。
「雨が止んだのに気付いた梢恵さんが何気なく空を見上げてた。その姿を見た時、思わず手に持っていたカメラのシャッターを押していたんだ」
窓越しに傘をさした女性……その光景が頭に浮かんだ瞬間、ハッとした。
えっ? ちょっと待って……
「それって、まさか……」
「そう、あの写真の女性は、梢恵さんだよ」
理央ちゃんが知りたがってた白石蓮が好きだと言ってたモデルが、私?
「あ……でも、あの傘。私、ここ数年はドット柄の傘しか持ってなかった。なのに、あの写真の傘はドット柄じゃなかったよね? もしかして君の勘違いなんじゃない? ホントに私だったの?」
私はまだ半信半疑だった。あの写真は、展示会と白石蓮の部屋で二度見てる。たとえ顔は写ってなくても、自分ならすぐ分かるはずだと思ったから。
「梢恵さん、覚えてないんだ……あの日、梢恵さんがカフェに来た時は雨は降ってなくて、傘を持ってきてなかったんだよ。それで、叔父さんが店にあった傘を梢恵さんに貸したんだ」
カフェの傘? そんな事あったの? 全然覚えてない。
「梢恵さんの記憶の片隅にも残ってないあの日から、俺は梢恵さんが好きだった。ずっと、想い続けてきた」