『それは、大人の事情。』【完】
「いや……沙織じゃない」
「えっ? じゃあ、なんの用だったの?」
「絵美だよ。アイツ、急性アルコール中毒になって、救急車で病院に運ばれたらしい。義母がどうしても来てくれって言うから、とにかく病院に行って様子を見てくる」
恵美さんがそんな事に……じゃあ、沙織ちゃんはどうしているだろう。お母さんが救急車で運ばれたのなら、きっと心細い思いをしているはず。
そう思ったら居てもたってもいられず、クローゼットを開けた真司さんに「私も連れてって!」と叫んでいた。
「しかし……病院には向こうの家族も居るんだぞ。梢恵は行かない方がいいんじゃないか?」
私だって、真司さんの元妻の家族に会うのは気が引ける。でも、沙織ちゃんの事を思うとジッとしていられなかった。
「私は平気だから。それより、お母さんが急に入院して、沙織ちゃん不安で一杯だと思う。少しでも傍に居てあげたいの。だから、お願い……」
必死で願いする私に根負けした真司さんが「本当に、いいんだな?」と念を押してくる。
すかさず頷き、大急ぎで着替えて絵美さんが運ばれたという病院に向かった。到着した病院の夜間出入り口の受付で絵美さんの病室を教えてもらいエレベーターホールへ行くと、タイミング良くエレベーターの到着音が聞こえた。
扉が開き、中の人が降りてきたので乗り込もうとしたんだけど、真司さんは足を止めたまま動こうとしない。不思議に思っていたら、真司さんがエレベーターから降りてきた人物に深々と頭を下げたんだ。