『それは、大人の事情。』【完】
「まだ出会ったばかりなのに?」
スーツの上着に腕を通している部長に問い掛けると「時間なんて関係ないだろ?」って即答された。
「大切なのはお互いの気持ちだ。俺は朝比奈となら上手くやっていけると思う。考えといてくれ」
微笑んだ部長の白い歯が窓から差し込む朝日の中でキラリと光り、私はその眩しさに目を細め小さく頷いていた。
こんなに幸せでいいんだろうか……
そして私達は二人揃って部長の部屋を出て会社に向かう。途中、会社の人に疑われない様に距離を取り、別々に会社のビルに入った。
お互い独身同士、隠す必要はないと思ったけど、やっぱり会社の人達に知られるのは気が引ける。
何事もなかった様に自分のデスクに座るが、佑月には隠し事は出来なかった様で、すぐさま給湯室に引っ張られ問い詰められた。
「梢恵、昨日と同じスーツじゃない。どこに泊まったのよ?」
「んっ?」
「まさか、部長と?」
いつになく険しい表情の佑月に戸惑っていると、彼女の口から意外な言葉が漏れた。
「神矢部長はダメだよ」
「どうして?」
「部長と関わると、ちょっとややこしい事になるかも……」
佑月はそう言うと、廊下に誰もいないのを確認して私を給湯室の奥に引っ張って行く。
「……実はね、今朝の電車で秘書課の娘と同じ車両になって、彼女達の話しを聞いちゃったの。神矢部長が本社に戻って来たのには、理由があったんだよ」