『それは、大人の事情。』【完】
「理由って?」
心がザワつき、嫌な予感がした。
「電車に居たのは、専務の秘書やってる娘らしくて、その娘が言ってたんだけど、部長の別れた奥さんっていうのが、専務の娘だったらしい」
「専務の娘?ホントなの?」
「うん、あの若さで部長だなんておかしいと思ったんだよね~。ウチの会社で部長になるのは、出世が早くて四十代後半。ほとんどが五十代でしょ?でも、専務の娘婿なら納得出来る」
「ちょっと待ってよ。彼が部長に昇進したのは今回の異動の時でしょ?今は離婚してるんだし、関係ないんじゃない?」
低い声で反論すると、佑月は真顔で首を振る。
「それが関係大アリなんだって!その離婚した専務の娘が神谷矢長とよりを戻したいって言ってるみたいで、専務の意向で部長に昇進して本社に戻って来たみたいだよ」
「うそ……」
部長はそんな事、一言も言ってなかった……それどころか、私と一緒に暮らそうとまで言ってくれたのに……
「梢恵と部長の関係が専務の耳に入ったらマズい事になるよ。どうせセフレなんでしょ?面倒な事になる前に、サッサと別れちゃいなさい」
なんて答えていいのか分からず、佑月から目を逸らし唇を噛み締める。そんな私を見た佑月の顔が青ざめた。
「えっ……もしかして、梢恵……部長の事、本気で……?」
「違う!本気のワケないでしょ?ただのセフレだよ」
私は、咄嗟に部長との恋愛関係を否定していた。